「着物の正しい保管方法がわからず、生地にカビが生えたり傷ませたりしてしまった」という失敗は多く聞かれるものです。着物の中には繊細でお手入れに手間がかかるものもありますが、適切な環境で保管し、日々のちょっとしたお手入れを続ければ長く着続けることができます。
今回は、着物を保管・収納する基本的な手順や、大切な着物を長持ちさせるために知っておきたい「着物を傷ませる5つの要素」を避ける保管テクニックについて解説します。自宅で誰でも手軽に取り組めるものばかりですので、着物の保管方法に迷っている方はぜひ参考にしてください。
着物を保管する上での基本要素
着物は、適切な状態で保管することを心がければ長く着続けることができます。中には傷みやすく繊細なものもあるため、以下の5つの要素を避けられる収納環境を整えましょう。
<着物を傷ませる5つの要素>
- 湿気
- 虫
- たんぱく質の残留
- ガス
- 紫外線
着物を保管・収納する基本的な流れ
着物を傷ませる5つの要素を避けながら、着物を長持ちさせるための保管・収納方法の基本を解説していきます。
①着物に汚れが残っていないか確認する
着物を収納する前に、汚れが残っていないか全体を確認しましょう。食べこぼしのシミや子どものよだれなどがついたままの状態は”たんぱく質の残留”につながり、着物が傷む原因となります。自分でしみ抜きを行うか、専門業者へクリーニングを依頼して、着物がきれいになった状態で保管・収納に移ってください。
②陰干しして汗を飛ばす
着物に汚れがない状態で、日陰で半日から一晩干して汗を飛ばします。このとき、”紫外線”を防ぐために必ず直射日光を避けて陰干しすることと、型崩れを防ぐために一晩以上干し続けないことに注意してください。
陰干しした後の着物にきついしわが見られる場合は、生地の中に汗が多く残っている可能性が高いです。汗を放置するとシミや生地の劣化の原因となるため、自宅で、あるいは専門業者に依頼して汗抜きを行うことをおすすめします。
③たとう紙に包んで収納する
汚れや汗を取り除いたら、いよいよ収納・保管に移ります。
着物は「たとう紙」という紙に一枚ずつ包んで収納します。和紙であるたとう紙は通気性がよく、着物の”湿気”を吸い取って適切な保存環境を保ってくれるため、着物一枚ごとに必ずたとう紙を用意してください。
着物を本だたみしてたとう紙で包んだら、詰め込みすぎないようにゆとりをもって、折り曲げないように気をつけながらたんすに収納します。着物の保管には、湿気や虫を防いでくれる桐のたんすが最適。たんすは上段のほうが湿気が溜まりにくいため、生地が厚い着物や、より繊細な着物から上段に収めるようにしましょう。
桐たんすがない場合はプラスチック製の衣装ケースを
桐たんすに比べると、プラスチック製の衣装ケースは通気性に欠け、紙製のたんすは湿気がこもりやすいです。しかし、プラ製ケースは湿気を呼ばないという点では着物の保管・収納における適性があると言えます。
桐だんすの代わりにプラ製ケースで着物を保管する際は、着物の折れ曲がりがなくゆとりをもって収納できる大きさのケースを用意することと、防湿シートなどのグッズを活用することが必須です。通気性に欠ける分、後述する風通しのお手入れを欠かさないよう特に注意してください。
④定期的に風通しを行う
着物を長期間収納したままにしていると、湿気が溜まって着物にカビが生えたり生地が傷んだりする可能性が高まります。頻繁に出し入れして着ることが一番の湿気対策となりますが、なかなか着る機会がないものに関しては、以下のような方法で定期的な風通し(虫干し)を行ってください。
<着物の風通し・虫干しの方法>
- 晴れが数日続いて湿気が低い日に、風通しのよい場所で数時間陰干しする
- たんす(衣装ケース)の引き出しをすべて開け、10分程度扇風機の風を当てる
住宅環境などの問題で陰干しが難しい場合は扇風機を活用しましょう。専門業者に着物を預けてメンテナンスを依頼することもできます。
「着物を傷ませる5つの要素」を避ける保管・収納のポイント
着物を保管・収納する基本的な流れがわかったところで、先述した「着物を傷ませる5つの要素」をおさらいしましょう。
<着物を傷ませる5つの要素>
- 湿気
- 虫
- たんぱく質の残留
- ガス
- 紫外線
ここからは、これらの5要素それぞれに着目した着物の保管・収納のポイントを詳しく解説していきます。
湿気を避ける保管のポイント
着物を収納しておくたんすや衣装ケースは、中に湿気が溜まらないようにさまざまな工夫をする必要があります。梅雨など湿気が高い日が続く時期には特に注意してください。湿気を避けるための着物の保管のポイントは以下の7つです。
<湿気を避ける保管のポイント>
- たとう紙以外の紙製品(化粧箱など)は着物とは別の場所に収納する
- 生地が厚い着物(留袖、振袖など)はたんすの上段に収納する
- 生地が薄い着物(浴衣など)はたんすの下段に収納する
- たんすの引き出しの底には何も敷かない(プラ製ケースの場合は除湿シートを敷く)
- 除湿剤を一緒に入れる
- 湿度が低い晴れの日を選び、定期的に風通し(陰干し)を行う
- 陰干しが難しい場合は、たんすの引き出しをすべて開けて扇風機の風を当てる
着物の保管・収納に適している桐たんすを使う場合も、定期的な風通しは必須です。頻繁に出し入れして着ることが一番ですが、なかなか着る機会がないものも放置せずにお手入れを行ってください。
虫を避ける保管のポイント
ウール素材のものには虫が湧きやすいです。着物を収納する際は、ウールの着物とそうでないものを分けたり、ウールの洋服、ブランケットなどと一緒に収納するのは避けたりする必要があります。適宜防虫剤も使用しましょう。
たんぱく質の残留を避ける保管のポイント
たんぱく質の残留とは、食べ物・飲み物のこぼしシミや汗、子どものよだれといった汚れが着物に染みてしまっている状態を指します。小さく目立たないシミが長期保管のうちに生地を劣化させたり、一見汚れはないように見えても汗が残っていて、時間経過によってシミとして表出したりする可能性があるため、必ずきれいにクリーニングをしてから収納しましょう。
たんぱく質の残留に関して、着物を収納する前に行うべきお手入れは以下の4つです。
<たんぱく質の残留を避ける保管のポイント>
- 着用後、乾いた布で裾部分のほこりをやさしく落とす
- 着物に汚れがないか確認し、必要に応じてクリーニングを行う
- 収納前に陰干しして汗を飛ばす
- 陰干し後、きついしわが見られる場合は汗抜きを行う(自宅or専門業者に依頼)
ガスを避ける保管のポイント
着物の保管にあたって注意すべきガスとは、防虫剤や小物のプラスチック、ゴムなどから発生する可能性があるものを指します。この影響を受けて着物の色が変化してしまうガス焼けを防ぐために、以下の3つのポイントを意識してください。
<ガスを避ける保管のポイント>
- 防虫剤は一種類のみ入れる
- たとう紙のセロファン部分と防虫剤を近づけない
- プラスチックやゴムが使われている小物は着物とは別の場所に収納する
紫外線を避ける保管のポイント
紫外線は、太陽光はもちろん蛍光灯や白熱電球などにも含まれています。そのため、着物は部屋に放置せず暗所に保管・収納、外に干す際は陰干しが鉄則です。以下の3つのポイントに気をつけましょう。
<紫外線を避ける保管のポイント>
- 着用後は必ず直射日光を避けて干し、長時間放置しない
- 直射日光が当たらないところを保管場所とする
- 着物を部屋の中に出しっぱなしにせず、一時的に置いておく場合は風呂敷などをかける
着物を保管・収納するときの注意点
着物は、知らず知らずのうちにやってしまいがちなミスが劣化の原因となることが多々あります。着物を保管・収納するときの注意点を知り、着物を適切な環境で保管できるようにしましょう。
たとう紙は劣化したら交換が必要
たとう紙は消耗品です。劣化したたとう紙は湿気やカビを防ぐ効果がなくなるだけでなく、たそう紙自体に付着したシミ汚れが着物に移ってしまうこともあります。
紙に茶色の斑点があらわれはじめたら劣化が進んでいるサインです。一年に一度はたとう紙の状態を確認し、汚れや紙の劣化が見受けられたらすぐに新しいものに交換してください。
着物と小物は収納場所を分ける
和服の小物には、パーツの一部にプラスチックやゴムが使われているものが多くあります。これらの素材が防虫剤に含まれる成分と化学反応を起こし、着物の生地を傷ませたり変色させたりする可能性があるため、着物と小物は分けて保管しましょう。
また、小物のほか、窓つきのたとう紙に使用されているセロファン素材にも注意が必要です。防虫剤とセロファンが接するような配置は避けてください。
複数の防虫剤を併用しない
含まれる成分が異なる防虫剤を一緒に使用すると、化学反応を起こして着物の生地を傷ませたり変色・シミの原因になったりすることがあります。防虫剤は基本的に一種類のみを使い、数を入れすぎることも避けるようにしてください。
着物の保管・収納方法に関するQ&A
着物の保管・収納方法に関するよくある質問と、その回答をまとめてご紹介します。ここまで解説してきた内容を振り返るとともに、着物の初心者の方が抱きがちな疑問を解消しましょう。
着物の正しい保管方法は?
着物は「湿気」、「虫」、「たんぱく質の残留」、「ガス」、「紫外線」の5つの要素を避けるように気をつけつつ、以下のような流れで保管・収納してください。
<着物を保管・収納する基本的な流れ>
①着物に汚れが残っていないか確認する
②陰干しして汗を飛ばす
③たとう紙に包んで収納する
④定期的に風通しを行う
着物の着用後には汚れを除去し、陰干しによって汗を飛ばしてきれいな状態にしてから収納することが重要です。着物を汚れが残った状態のまま収納してしまうと、カビの温床となって生地を傷ませたり、内部に残った汗が時間経過によってシミとして表出したりする危険があります。
着物を保管するときに注意すべき点は?
着物を保管する際は、先述した基本的な流れに沿って収納を行った上で、以下の3つのポイントに注意してください。
<着物を保管・収納するときの注意点>
- たとう紙は劣化したら交換が必要
- 着物と小物は収納場所を分ける
- 複数の防虫剤を併用しない
着物は、うっかりやってしまいがちなミスによって劣化や変色を引き起こしてしまうことがあります。頻繫に出し入れして着ることがお手入れになりますが、あまり着る機会がないものも定期的に状態の確認を行い、常に適切な収納環境を保ちましょう。
着物についてきた紙類は保管に使うべき?
着物を新しく購入したときやクリーニングに出したときなどには、型崩れや色移りを防ぐための薄紙や厚紙を挟んでたたまれていることがあります。この状態のまま保管すればよいのではないかと考えがちですが、たとう紙以外の紙類は湿気を呼ぶため着物と一緒に収納してはいけません。同様の理由で、たんすの引き出しの底部分に新聞紙を敷くことも避けるべきです。
着物についてきた薄紙・厚紙、化粧箱などの紙類は保管には使わず、必ずたとう紙に包んだ上で着物を収納してください。
着物の保管には桐たんすが必須?
桐でできたたんすは、防湿性、防虫性、気密性のいずれにも優れており、着物の傷みの原因になり得る要素を排除してくれるため着物の収納にもっとも適しています。
しかし、着物を保管するために新たにたんすを用意するのは難しい場合もあるでしょう。除湿グッズ・防虫グッズを活用してこまめに風通しを行えば、一般的な洋服たんすやプラスチック製の衣装ケースでも代用が可能です。
特にプラスチック製の衣装ケースは、着物の大敵である湿気を呼ばないという点では保管に適していると言えます。ただし通気性に欠けるため、引き出しの底には除湿シートを必ず敷いてください。
着物を収納したたんすに日光が当たっても大丈夫?
着物を収納する際は、着物自体はもちろんたんすも直射日光を避けておく必要があります。紫外線の一部がたんすを通過して着物にまで届き、日焼け(ヤケ)を引き起こす危険があるからです。
一般的に「紫外線を避ける=太陽光を避ける」というイメージがありますが、実は紫外線は室内の蛍光灯などにも含まれています。人間の肌が日焼けするほどではないものの、着物などのものには少なからず影響を及ぼすため、原則として着物は直射日光を避けた暗所に収納しましょう。一時的に部屋の中に置いておく場合にも、風呂敷などをかけて紫外線を防ぐことを心がけてください。
着物のご購入をご検討の方は会津若松市の呉服店「きもの大善屋」まで
大切な着物を長持ちさせるために必ず知っておきたい、着物の保管・収納に関する基本的な知識を解説しました。着物の保管に最低限必要なものは、桐のたんす(プラスチック製の衣装ケースで代用可・除湿シート必須)、たとう紙、除湿・防虫グッズの3つです。着る機会が少ないものも定期的に風通しを行って、シミがあらわれていないか、生地の劣化が見られないかなどを確認しましょう。
着物にご興味をおもちの方は、会津若松市の「きもの大善屋」までぜひお気軽にお越しください。礼装はもちろんのこと、ちょっとした外出着や普段着としての着物まで幅広いお品を取りそろえていることが当店の魅力です。着物の取り扱いにご不安がある方には適切な保管・収納方法をお伝えし、日常生活に着物を取り入れるお手伝いをさせていただきます。